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どこかの記事で「バーゲン品を買ってはいけない」という言葉を目にしたことがある。「バーゲンに釣られて大して欲しくなかったものまで買わされてはいけない」「本当に欲しいものは定価で購入したとしても高い満足度が得られる」「安く買えたという満足度は長続きしない」等、戒めの意味を持つ言葉だったと記憶している。
今から10年以上前に、同じようなことを母に言われたことがある。学生だった僕は、新聞の折り込みチラシをつぶさに確認し、セール品の中で欲しいものがあれば、多少遠出をしてでも買いに行くという習慣があった。少しでも生活費を浮かせようと努力していたのである。この話を母にしたところ、母は呆れた顔で「時は金なり」と僕を嗜めた。
「セールで安く買えたしても、せいぜい100円程度やろ」「チラシを見比べたり遠出するのに、余計に30分かかったとすると、30分でリターン100円やで」「その時間を使ってアルバイトで稼ぐ方が有意義やと思わんか?」
言われてみると、母は日用品の大半を徒歩圏にあるスーパーで購入していた。そのスーパーは全体的に割高だった。往復20分ほど余計に時間をかければ、もっと安いお店に行くこともできたが、母はそれをしなかった。
母はパートで働いていたが、パート先は自宅から徒歩30秒ほどの所にある小さな書店だった。探せばもっと割のいいパート先は見つかったかもしれないが、母はそれをしなかった。
スーパーやパート先の往復時間を削ることで、自宅で過ごす時間、すなわち家族、特に子供(僕)と過ごす時間を拡充したい、その方が価値があると考えていたのだと思う。
「バーゲン品を買ってはいけない」は単なる生活の知恵ではない。その言葉の裏には母親の愛情が隠れていたのだ。