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大手電機メーカーの三菱電機にて、博士課程を修了して入社した幹部候補生が、長時間労働で労災認定を受けたことが話題となっている。当事案から読み取れる三菱電機の問題点について考察する。
報道によると、男性の上司は「残業時間の過少申告を事実上強制していた」「常軌を逸したパワハラを日常的に行っていた」とされている。これが真実だとすると、上司のパーソナリティに問題があったことは疑いようがない。この上司は、三菱電機の社会的信用を著しく毀損したという理由で、恐らく懲戒解雇されるだろうが、当事案の原因を上司個人に帰結させることは根本的な再発防止にはならない。三菱電機は以下の4点に取り組む必要があると、僕は考える。
①人事評価制度(管理者の選定基準)の見直し
恐らく問題の上司は非常に優秀なプレイヤーで、プレイヤーとしての能力や成果が認められて、昇進を果たしたのだと推察するが、優秀なプレイヤーが優秀な管理者になるとは限らない。むしろ優秀過ぎるプレイヤーは、他人の失敗や非効率を許すことができない、不寛容な管理者になる可能性が高いと思われる。管理者に求められるものは、人材育成能力、倫理遵法の精神、度量の大きさ等であり、プレイヤーとは求められるものが異なる。このことを理解したうえで、人事評価制度を見直す必要があるだろう。
僕が勤める会社にも、何人もの若手技術者を休職・退職に追い込み、従業員から大いに嫌われている男性がいるが、プレイヤーとしての功績を評価されて、課長に昇進を果たしている。近しい従業員から評判を聴取し、それを査定に反映していれば、彼が課長に昇進することはなかったであろう。人事を非難する人も少なからずいたが、人事を責めても意味がない。人事が正しい判断を下せるように、優れた管理者を選定する仕組みを構築することが重要である。
②管理者教育の充実
プレイヤーは日々研鑽を積むことにより成長することができる。管理者も同様である。三菱電機ほどの大企業であれば、管理者に対する教育も実施していたと思われるが、労災認定の事実を真摯に受け止め、現行の教育制度は不十分あるいは無意味であったと認めるべきである。
③若手技術者を即戦力として扱う風土の改革
たとえ高度な専門技術を有していたとしても、業務経験が少なければ、要領良く業務を遂行することは難しい。大学の研究室は、個人のペースで研究を進めることができ、また営利団体ではないため思うような成果が得られなくても滅多に責められはしないが、会社では上司による定期的な進捗状況のフォローがあり、進捗に遅れがあれば厳しく叱責されることもある。長く大学生活を送っていれば、ギャップに戸惑い、適応に時間を要することもあるだろう。また学校の研究分野と業務内容が完璧にマッチングしていることはほとんど有り得ず、若手技術者は否が応にも新しい知識を習得しなければならない。すなわち若手技術者の心理的・時間的負担は非常に大きいと言える。
自らの若手技術者時代を振り返り、部下の働きに不満を感じる管理者もいると思うが、今の管理者が若手だった20~30年前から革新的に技術は進歩しており、当時は最先端だった技術が陳腐化していることも多い。しかし陳腐化した技術の中にも学ぶべきことは多く含まれる。すなわち今の若手技術者が前線で活躍するためには、今の管理者が若手の頃よりも遥かに多くのことを習得する必要がある。自らの経験に基づき若手を批判することはナンセンスである。
僕は、少なくとも入社から3年間は研修期間と考え、成果を求めるべきではないと考えている。
なお、僕が勤める会社でも、メンタル不調により休職あるいは退職を余儀なくされた従業員のほとんどが、入社数年以内の若手技術者である。三菱電機に限った話ではない。若手技術者の労働環境改善は、喫緊の課題だと考える。
④部下の入退室記録と申告時間の差異を管理者の査定項目に加える
上司が部下に対して残業時間の過少申告を強制する動機を解消する必要がある。恐らく三菱電機では、部下の残業時間が所定の時間を超えた場合、管理者は産業医からの改善指導や経営者からの叱責を受けるのではないかと思う。管理者は、自分が改善指導や叱責といった鞭を食らいたくないから、部下に過少申告の強制という鞭を食らわせているのではないだろうか。部下の入退室記録と申告時間の差異が大きい場合には管理者の査定を下げるなど、部下に矛先を向けさせないための対策を検討する必要があるだろう。
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