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僕が就職活動をしていた頃、シャープは大人気企業だった。会社説明会に参加したこともある。「他の大手電機メーカーと比較して高い利益率」「これまでに一度もリストラをしていない」ことをアピールしていたと記憶している。確かな技術力を持ち、独創的な製品を次々と世に送り出している面白い会社だが、マーケティングや知財戦略が苦手で、いつも後発の会社にシェアを奪われ追い越されている印象があった。世界最大の液晶パネル工場を大阪の堺に建設する計画を聞いた時は、シャープらしくない大博打に出たな、と感じた。安定志向が強く、堅実な社風を求めていた僕は、液晶に一極集中することに危うさを感じ、シャープを就職先候補から外すことにした。シャープの現状を考えると、当時の直感は正しかったと思う。
本書は、就職して間もない頃に古本屋で見かけ、表題に惹かれて購入した。シャープの最盛期にあたる2004年の発刊である。シャープの強さを経営指針や制度に着目して詳説している。10年以上前のビジネス書籍を敢えて購入する人はあまりいないだろうが、シャープの今を踏まえながら改めて読んでみると大変興味深かったため、当ブログで紹介したいと思う。
【太陽電池事業について】
n 2003年の太陽電池の世界シェアはシャープが4分の1以上を占め、2位以下に圧倒的大差をつけている。
n アジア勢の電機メーカーの中で、太陽電池事業に参入しているのは日本だけである。
n 太陽電池の製造現場は経験や蓄積がものを言う職人芸の世界で、シャープは40年余りの先行実績があり、優れた技術者が集結しているため、後発で参入しても勝ち目がない。
n 住宅用需要が世界的に拡大傾向にあり、製造コストダウンや変換効率の向上が進めば、一層の消費拡大が見込まれる。
日経テクノロジーの記事によると、「太陽電池セルの年間出荷量は増加傾向にあり、2015年は2010年比で3倍弱に急伸している」「2015年の太陽電池セル生産量TOP10に日本企業の名前は無く、上位は中国勢が占めている」「シャープの天下は2007年に終焉を迎え、2012年を最後にTOP10からも姿を消した」「日本企業がシェアを奪い返すことは将来的にもほとんど有り得ない」とのこと。
需要拡大の見通しは当たっていたが、40年余りの歳月をかけて培った経験や蓄積による参入障壁は、僅か数年で追い抜かれ、その技術は10年もかからず陳腐化してしまった。たとえ半世紀近い先行実績があったとしても、中国や韓国が本気になれば、5~10年でシェアは逆転されてしまうということだ。これは太陽電池事業に限った話ではなく、一般論だと思う。近年は設備技術革新が進み、匠の技術すらも再現できるようになりつつあると聞く。将来性のある市場であれば、多額の設備投資が行われ、製造技術の差は一気に詰められてしまう時代が来るだろう。電機業界の市場競争はますます激しくなり、再編・統合も加速していくのではないだろうか。
【全社横断の大型開発プロジェクト(通称:緊プロ)について】
n シャープは1977年にトップダウンで商品開発や技術開発を加速するプロジェクトマネジメントシステム(通称:緊プロ)を制度化した。
n 開発テーマを公募し、有望と認められれば多額の予算と人材を割り当てられる。参画メンバーの半数はリーダーが指名できる。他の事業領域から人材を引き抜くこともできる。
n リーダーは他部門の人材を率いてプロジェクトを成功に導くという重い責任を負う。その経験が将来の企業リーダーを養成する教育の機会となる。
n メンバーに選ばれると毎月の進捗報告会などで社長と直接面談する機会を得る。社長から直接激励の言葉をかけてもらえることは、最高に嬉しい。
僕が勤めている会社では、研究部門が2~3年の期間で先進性のある基礎研究に取り組んでいるが、その成果がビジネスに結実することは稀だ。基礎研究は、論文を投稿して学術的に評価されることや特許を取得することがゴールになっていて、製品化して社会にインパクトを与えることや会社の利益を創出することがゴールではないように思える。研究者たちは、「我々の研究は10年先20年先を見据えたものだ」、「量産技術は設計部門や製造部門が確立すべきことだ」、「販促の手法は企画部門や営業部門が考えることだ」と、割り切っているように思える。部門間の懸隔は著しい。
シャープの緊プロは、社長が決裁した案件であるため、売り上げや利益につなげることが至上命題となり、全社を挙げて取り組む動機が生まれる。社長のお墨付きがあるため、メンバー構成の自由度も非常に高くなる。これは素直に良い制度だと思う。シャープのユーモラスな製品群が生まれた背景に、緊プロの存在があったことは間違いなさそうだ。社長と定期的に話す機会が得られる点も羨ましく思う。僕にとっては部長ですら遠い存在で、社長には会ったことすらない。雲の上の存在である社長から直々に声を掛けてもらえれば、内容が何であっても、励みになることは疑う余地がない。
しかしながら、シャープ凋落の遠因は緊プロではないかとも思う。本書では「シャープには閥がない」と書かれていたが、事業領域間での人材の引き抜き合戦が常態化していたということは、若手時代から競争に晒されてきた幹部間の軋轢は相当に苛烈だったのではないかと推察する。アジア勢(主に韓国、将来的には中国)との厳しい価格競争によって、消耗戦になることは目に見えていたにもかかわらず、堺工場建設という大規模投資に踏み切ってしまったのは、当時の社長が液晶事業部出身の片山氏だったことと、無関係ではないだろう。堺工場建設は、オンリーワンを経営理念としていたシャープが、シェア拡大重視のナンバーワン戦略へと方針転換したことを、示唆しているように思う。
【まとめ】